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【アドテク業界の英語】やっぱり気になる「アドフラウド」の発音

impression fraud

 

ネット広告の世界では今や知らぬ人とてない「アドフラウド」ですが、この記事では、職業翻訳者の観点から、日本語のアドフラウドではなく、英語の【ad fraud】に注目したいと思います。

アドフラウドはなぜカタカナ表記するのか?

ad fraud の ad は「広告」です。advertisement / advertising の ad ですね。ちなみに英語では advertisement の短縮語として advert を使うこともあります。

fraud は「詐欺(行為)・不正(行為)」を指します。credit card fraud はクレジットカード詐欺、tax fraud は脱税です。未だ拡大するばかりのオレオレ詐欺はしばしば telephone fraud の訳語が充てられます。また、電話で「あ、私だけど」って言うのを英語では “Hi, it’s me” と言うため、It’s me fraud と訳されることもあります。

だったら ad fraud は広告詐欺とか不正広告でいいじゃないか、と言われるかもしれませんが、それがそうでもない。

例えば、広告を使った詐欺行為は広告の種類や手口にかかわらずすべて広告詐欺です。正当でない、不誠実な広告はすべて不正広告です。

一方、アドフラウドが意味する不正はもっとずっと限定的です。その種類や手口はさまざまですが、もっぱらネット広告にまつわる不正行為であり、その被害者は一般消費者ではなく、第一義的には広告主です。

例えば(マーケティング関係者の方には釈迦に説法ですが)。

あなたはあるサイトにアクセスします。アクセス先のページに広告が表示されます。ここでブラウザのリロードボタンを押して再読み込みします。先ほどとは別の広告が表示されます。もう一度リロードボタンを押します。また別の広告が表示されます。

この場合、あなたがあなたの手でリロードボタンを押し、あなたの目で広告を視認します。その対価としてそれぞれの広告の広告主は決められた掲載料を支払います。めでたしめでたし。

でも。ネット広告の世界では、リロードするのが人とは限りません。人と同じように振る舞う自動プログラム(いわゆるボット)でも同じことができるのです。そして広告主は誰も見ていない広告に掲載料を支払うことになる。ぜんぜんめでたくない。

これが代表的なアドフラウドの一つです。

逆に、「主婦の方必見!月10万円のお小遣いを稼ぎませんか?」みたいな釣り口上で消費者から個人情報をかすめ取るような広告は確かに不正な広告ですが、ネット広告業界で言うアドフラウドには当たりません。

翻訳にしろ通訳にしろ、ヘタに広告詐欺とか不正広告と訳すより、カタカナ表記のアドフラウドを使うほうが正しい意味が伝わります。

ad fraud のカタカナ表記は「アドフラウド」?

ここまでさんざんアドフラウドという言葉を使ってきて何ですが。

ad fraud の発音について考えてみたいと思います。正しくは fraud の発音です。

fraud の【rau】を「ラウ」と読みたくなる気持ちは日本人としてよーく分かります。そもそも日本人にとってアルファベットとの最初の出会いはローマ字です。ローマ字では【rau】を「ラウ」と読ませるのです。どうしたって fraud は「フラウド」になってしまう。

しかし、fraud の発音記号は /frɔːd/ もしくは /frɑːd/ です。Cambridge Dictionary で【fraud】の音声情報を聞いてみてください。「フラウド」よりも「フロード」に近いことが分かります。

実は、英語の単語は一見すると、アルファベットが無規則に並んでいるように見えますが、発音とスペリングの間には一定の規則性があります。この規則性を学ぶのが、近年注目を集めているフォニックスという学習方法です。

フォニックスのルールにしたがえば、【au】は /ɔː/ もしくは /ɑː/ と発音します。カタカナ表記するなら【オー】です。

実際、【au】を持つ英単語のカタカナ表記は通常、【オー】を使っています。

例えば。

audio = オーディオ
auction = オークション
autumn = オータム
Australia = オーストラリア
pause = ポーズ
sauce = ソース

他にもたくさんあります。

一方で、【laun】を【ラン】と読んでいるケースもけっこうあります。

laundry = ランドリー(フォニックス的には「ローンドリー」)
launcher = ランチャー(フォニックス的には「ローンチャー」)

 

fraud の【au】をフォニックスのルール通りに【オー】と読むなら「フラウド」ではなく「フロード」になります。ad fraud は「アドフロード」です。

英単語のカタカナ表記について思うこと

カタカナは表音文字です。でも日本語の音を表す文字であって、英語の音を正確に表記することはもとよりできません。

英単語をカタカナ読み、またはローマ字読みしても、英語の話者には伝わらない(かもしれない)。そういう意味ではアドフラウドもアドフロードも五十歩百歩です。

それでも。英語の言葉を新しくカタカナ表記する際は、デジタル辞書の音声ファイルで音を確認するとか、発音記号を参照するなどして、できるだけもともとの発音に近い表記にするほうがよいと思うのです。

ad fraud は字面をテキトーにローマ字読みした結果、「アドフラウド」になってしまったと想像しますが、ほんのちょっと手間をかけて音声や発音記号を確認すれば、「アドフラウド」は今ごろ「アドフロード」として普及していたかもしれない。

私は特にフォニックスの推奨者でも推進者でもありませんが、フォニックスのルールも参考になるでしょう。

【au】の発音は基本的に【オー】というフォニックスのルールに従えば、ad fraud は「アドフロード」です。

同様に、【ow】の発音は基本的に【アウ】と発音します。このルールにしたがうなら、allowance はアローワンスよりアラウワンスに近い。

フォニックスには「mbで終わる単語のbは発音しない」という決まりがあるんですが、これはけっこうちゃんと守られています。

例えば、髪を梳く櫛を意味する comb は「コーム」だし、山登りの climb は「クライム」だし、親指を表す thumb は「サム」です。ついでに言えば写真と関連して使われる thumbnail も「サムネイル」または「サムネール」ですね。

爆弾を意味する bomb ももちろん「ボム」なのですが、ゴールデンボンバーさんはどうしてボンバーさんになってしまったのでしょう。なぞです。

ちょっと外れちゃいますが、粉末スープの「クノール」の綴りは Knorr です。英語由来ではなくもともとはドイツ語です。ドイツ語では頭のKを発音するようなので日本語では「クノール」と表記していますが、アメリカに行くと「クノール」は「ノール」になってしまいます。

これは英語のフォニックスに「knで始まる単語のkは発音しない」というルールがあるからです。これもけっこうよく知られています。

例:know, knight, knowledge, knock, knee, knife など

実は、アメリカに高校留学していた当時、フォニックスのルールを知らなかった私はスーパーの棚でクノールスープを見つけ、「あ、クノールスープがある」と言ってしまいました。そばにいたホストマザーに即座になおされた次第です。「ジュンコ、Kは読まないのよ、ノール、ノールスープ」ちょっと恥ずかしい思い出です。

フォニックスをちゃんと語れるほどフォニックスに通じているわけではありませんが、こんな経験をご紹介しつつ、フォニックスの話題も取り上げていきたいと思います。みなさん、いっしょに少しずつ覚えていきましょうね。

おしまいに「アドフラウド」に戻りますが、通訳や翻訳をするとき、私は「アドフロード」ではなく「アドフラウド」を使っています。さんざん「アドフロード」が正しいと言っておきながら、最後の最後でひよるのか!と叱られそうですが、もう時既に遅しっぽいんですよ。お客様も同僚もみんな「アドフラウド」を使っています。訳語としてほぼ定着してしまっているのです。みんなが分かる訳語を使わないと通訳や翻訳の意味がないので、ここは「アドフラウド」で納得するしかないのかなと。そういう次第です。

 

想定より長くなってしまいました。最後まで読んでくれてありがとう!また来てね。